愛知県豊橋市、豊川市、浜松市、岡崎市、豊田市、名古屋市、蒲郡の皆さまこんにちは。愛知県豊橋市のオリバ犬猫病院、獣医師の辻元です。
今回は猫伝染性腹膜炎・FIPについて解説いたします。
<FIP・猫伝染性腹膜炎とは?どんな症状がある?>
猫伝染性腹膜炎(以下FIP)はFIPウイルスによる猫の感染症です。かつては発症してしまうと致死率ほぼ100%と言われていました。こんなに致死率の高い病気にも関わらずFIPの治療薬で動物用医薬品として承認を得ているものは現時点で存在しません。しかし全く治療法がないわけではなく、FIP治療に効果が期待できる治療法も報告があります。今回は当院で主に使用しているモルヌピラビルについて紹介をします。
まず初めに家で分かりやすい症状として
・元気消失
・体重減少
・腹部膨満(痩せてきているのにお腹だけ膨れている)
・食欲不振
・発熱
・可視粘膜蒼白(貧血)
・黄疸(特に白目が分かりやすい)
・胸水による呼吸困難(開口呼吸など)
・眼の充血
・リンパ節腫脹
・神経症状(歩き方がおかしい、痙攣)などがあります。
<FIPの原因について>
FIPの原因となる猫コロナウイルスは飼育猫の約40%が感染しており、そのほとんどが消化器症状(下痢など)を示す局所性の感染で終わる事がほとんどです。猫コロナウイルス自体は珍しくありませんが突然変異を起こしてFIPウイルスに変化してしまうと猫伝染性腹膜炎を発症してしまいます。
FIPを感染、発症しやすい特徴として
・同じ生活環境内にFIP感染猫がいる
・多頭飼育である
・比較的若い猫で純血種である
・ストレス、免疫抑制剤状態である
<FIPの治療方法について>
代表的な治療法として2種類の治療法を紹介します。
①抗ウイルス薬…代表的なものとしてGS-441524、レムデシビル、モルヌピラビルなどが挙げられます。簡単に説明するとこれらの抗ウイルス薬はFIPウイルスが体内で増殖する際に遺伝子にエラーを引き起こさせて増殖を抑える薬剤です。
②抗炎症薬…FIPは全身的に激しい炎症を示す為、炎症を抑制する薬が効果的です。
代表的なものとしてステロイド薬があげられます。基本的には抗ウイルス薬と併用します。
<当院のFIP治療について>
当院では主にモルヌピラビルを使用して治療を行っています。モルヌピラビルは、もともとインフルエンザウイルスに対する治療薬として開発されました。この薬は、抗ウイルス薬に分類されます。開発は、米国の製薬会社メルクとリッジバック・バイオセラピューティクスが行いました。
2020年に入り、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が世界的なパンデミックを引き起こしたことを受け、モルヌピラビルは新型コロナウイルスに対する治療薬としての可能性を探るための研究が進められました。臨床試験の結果、モルヌピラビルは人の新型コロナウイルス感染症の軽症から中等症の患者において、病院入院や死亡のリスクを減少させる効果があることが示されました。FIPに関しては、モルヌピラビルの使用は元々の開発目的からは外れていますが、その抗ウイルス作用がFIPの原因となる猫コロナウイルスにも有効である可能性があるため、研究が進められました。その結果モルヌピラビルは猫コロナウイルスの増殖を強力に抑制する事が実証されました。ただし現在の課題として長期投与した際の安全性はいまだに不明なところがあります。当院での使用の際にも治験の側面を含む投薬となる事を了承していただいております。
従来の治療薬は超高額でFIP治療を諦めて対処療法のみの猫ちゃんを何頭もみてきました。モルヌピラビルは従来の治療薬よりはるかに安価となり助かる可能性がある為、FIPの診断がついたからと言って諦めずに電話でも良いので当院に問い合わせください。